午後とうた/木立 悟
 



木はそこにいて
降るようだった
午後を咲かせ
庭を照らし
笑みを空へ近づけた


駅もなく 列車もなく
鉄路だけがあり
長く取りはずされることもなく
街をふたつに分けていた
異なる火を生きるものたちが
けものとけだものたちだけが
夜ごと夜ごとにすれちがう路


木のない原の
石の声
曇と重さ
粒の花
青から 青から
尋ね来るもの


水が動き
午後を運び
すべての行方は暗くかがやく
鏡の陰に生まれる鏡
空の花にまたたく鏡


まよえ はなて
ほまれのうた
とどまらぬ道
星の漕ぎ手
変わりゆく声
波のしぶき
うたえ うたえ
ほまれのうた


氷と土の
さかいめの蛇
道の鏡に映る道へと
弔いを終えた左手は去り
めぐる枝に残される
花ひとつ うたひとつ
庭を鉄をふるわせて
ひとつの午後をすぎてゆく










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