可愛らしい胃薬が僕を手招くから/時雨
 
付き合って一周年だからケーキを焼くとキミが張り切ったとき、
嫌な予感はしたものの、僕は何も言えなかったんだ。

おいしそうな香りがしてるでしょう?と、キミが家に僕を招いてくれたとき、
明らかに焦げたにおいしかしなかったんだ、ほんとは。
僕は何も言えなかったけど。
チョコレートをデコレーションされたケーキはおいしそうだったけど、
台所で乱雑に切られた無惨な野菜をみて全てを察していたんだ。
僕は何も言えなかったけど。

さぁ、食べて。と差し出されたケーキは見事なホールケーキで、
コレ全部?と目でアイコンタクトしたけどキミはただ微笑むだけだった。
どうやら伝わらなかったみたいだ。
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