風は...../do_pi_can
風は,
記憶に乗って吹きすさぶ
寒空であれば,あるほどに
記憶だけを頼りに
吹きすさぶのだ
星々の瞬く
張り詰めた夜の中
かつて海であった場所や
切り崩された山の頂を
手探りで渡る時
風は
涙の一つも流してやろと
こそと囁く
囁いて走り去る
みみずくだけは
聞き漏らさない
風の声にならぬ声
涙の一つも流してやろ
涙なんか
とうに枯れてもたでなぁ
風呂帰りの老婆がしわぶき
手ぬぐいで鼻水をぬぐいながら
涙は
とうに枯れてもたでなぁ
と
老婆が最後に泣いたのは
この地が激しく揺れてから
何十日もたってからであった
息子も,孫も
[次のページ]
戻る 編 削 Point(2)