風は...../do_pi_can
 
風は,
記憶に乗って吹きすさぶ
寒空であれば,あるほどに
記憶だけを頼りに
吹きすさぶのだ

星々の瞬く
張り詰めた夜の中
かつて海であった場所や
切り崩された山の頂を
手探りで渡る時
風は
涙の一つも流してやろと
こそと囁く
囁いて走り去る
みみずくだけは
聞き漏らさない
風の声にならぬ声

涙の一つも流してやろ

涙なんか
とうに枯れてもたでなぁ
風呂帰りの老婆がしわぶき
手ぬぐいで鼻水をぬぐいながら
涙は
とうに枯れてもたでなぁ


老婆が最後に泣いたのは
この地が激しく揺れてから
何十日もたってからであった

息子も,孫も
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