きっと、忘れない/松本 卓也
 
向かい風が強く
帰路を遮っていた

ネクタイに残る斑点
三月に降る雪はいつもより
駆け足に融けていくようだ

見上げた街頭が染める
閉じ行く季節の徒花は
移ろう時に逆らいながら
自らの存在を確かにしつつ
終焉にまどろんでいる

掲げた掌に舞い落ちて
刹那が過ぎるのを告げる
人肌に触れて声も無く
一粒の涙が伝っていく

別れの季節を迎える前に
冬さえもサヨナラを告げて
久遠に埋没した幾つかの笑顔を
一つ一つ夜に浮かべていく

やがて来る息吹の前に
受け取った忘れ形見は
ただの雫になっているけれど

吹きかかる冷たい風雪に
ささやかに混じる花びらが
申し訳なさそうに舞っている

やがて訪れる季節と
いつか辿り付く場所に
一つでも多くの欠片を
精一杯運んでいくから

向かい風が強く
僕に問いかけてくる

きっと、忘れない
僕は答えた

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