水紋の子/木立 悟
忘れていたうたの重さに涙し
かつて得た声を噛みしめるとき
子は映るもののない水の
変わりつづける球面をゆく
光を包もうとするものは
既に光に包まれていて
やわらかなやわらかな腕の輪の
かがやくひとりを指さしている
離れゆく曇の語る目を
支えるように添えられた指に見ながら
雨に近いまばたきを
子は左目にくりかえす
羽になり腕になり羽になり
夜の視線は増してゆく
熱を見つめるものの手のひら
吹雪へと吹雪へとひらかれる
降りてくるのは鳥なのか
語りかけるのは珠なのか
水紋の端々が端々に重なり
暗がりを暗がりに震わせてゆく
球面を覆う流れはしずまり
やがてこぼれるひとしずく
震えるからだ ひとりの子
世界を隠した左目に微笑む
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