君が泣こうとしている/右肩良久
 
君がはや泣こうとしている

握りつぶされる二つ割りのバレンシアオレンジ
日本列島を雲の太股が締め上げじわりと性器が湿る

僕も泣きたいけど泣けない

フィクションの積み木がカタカタと音を立てるだけで
僕の頭の中には一粒こぼれた葡萄すらない

季節の輪郭に沿って断続的に雨がやってくる
悲劇の足音がする

らしい

僕はただバラバラになっていくだけで
少しも泣けない
腕がもげ首が傾ぐ膝が割れ顎が外れる

君は泣こうとしている
蜜にまみれた蜂の羽音
死骸に根を張る草の雫

君は泣けばいい泣くべきなのだ
口の中にキャラメルのキューブが蕩けるまで
音楽のコアが数滴流れてからみつくまで

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