あの、手紙は/たりぽん(大理 奔)
浜辺に漂いついた瓶のように
ひとり暮らしの郵便受けに
届いた宛名違いの封筒は
丁寧な文字で
差出人の住所
きっと昔、この部屋に住んでいた
誰か宛の誰かの手紙
なにかの縁だろうと
不在を伝える便箋とともに
封書を送り返す
浜辺に打ち返す波に押されるように
その封筒は郵便受けに
宛先不明で戻ってきた
まるでこの住所に届きたかったのだと
いわんばかりに
差出人はこの手紙を出したあと
どこかに越したのだろうか
それを伝える手紙だったのだろうか
僕にはやるせない思いだけが残ったけど
手紙はこの部屋のものだろうと決めつけ
そのまま6畳一間の畳の下に隠し込む
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