モーツアルト/前田ふむふむ
曲線だけで描かれたノマドの世界に、わたしはモーツアルトの直線をさしいれる。忽ち、あざやかな弧を描く、世界の始めが出来て、終わりが作られる。弧からひろがる秩序は、溢れるほどの音符を創り出して、お互いが織物のように絡み合いながら、わずかな一片の楽譜のなかで晴れやかな宇宙を語り始める。
その饒舌な音の共鳴は 白い馬になり、草原を軽やかにかけわたり、みずうみの透明な水面を、爽やかな風になり揺り動かして、空高く飛び立つ雲雀の声になり、朝の山々をひびきこえる。
神童の快活なまなざしよ。
あふれる旋律の赤く燃ゆる純潔のいぶきよ。
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わたしは亡霊にとりつかれた夢遊病者の顔をして
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