ブランシュの丘/望月 ゆき
 
たびに
でたらめな歌を口ずさんでくれた あなたが
ほんとうは夜がきらいだったことを
わたしはちっとも
知らなかった
ねえ、ブランシュ、
あれからたくさんの歌をおぼえたから
今ならひと晩じゅう わたしが
となりで歌ってあげられるのに



ねえ、
わたしたちは いつも 
あまりにたくさんの意味をもちすぎる
曖昧なだけの言葉にふりまわされていて
点滅する、信号さえ
見失っていたよね
だけど それでもわたしは
しあわせだった
って言っても もう、
うそになるかもしれない



ねえ、ブランシュ、
日常は苦しすぎて
先のことなんて考えたことはなかったけど
今もまだ
テーブルの向かい側には
あなたの姿を見てしまう
すると
遠くの丘から かすかなチャイムが届き
あなたの吐くたばこのけむりが
壁づたいに 青い空へ
スポンジの模様で、消えていく

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