調律/松本 卓也
ちりん、ちりんと
ストラップにかけた
小さな鈴が泣いていて
僕はただとぼとぼと
涙さえ流せずに
現実に草臥れていました
金に囚われた義務と
時に縛られた責任が
いつの日か忘れ去る
過去の映像を捉えて
笑っている幼い僕が
とても滑稽に見えるのです
そうやってポツリと
呟いた嘆きの向こうで
太陽は昨日より少しだけ
ゆっくりじっくり
地平に沈みます
やがて静かな歌が
空耳のように聞こえて
歌詞の意味もわからぬまま
ただ立ち尽くすのです
小さなメロディは
風に流れた雲を引っ掛け
少しだけ重みを増しました
それは褐色の光を浴びて
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