小説「料理とワイン」/緑茶塵
「どう、ここの料理は?」
彼女は私の上司だ。この店がとても気に入っているようだった。
「ここにはね、あまり人を連れてこないのよ」
どんな意味で言うのか。どうせたいした意味ではない。
「お疲れ様」
彼女はワインを掲げて笑う。微笑ではなくて、笑いなのだ。
「ここはね、会員制でそのうえ完全予約制なのよ。すごいでしょ」
私の上司は、料理を慣れた手つきで食べながら話を続ける。
「今回のことはお礼を言っておくは。あなた本当に役に立ったわ」
私はあいまいに頷く。役に立ったのかもしれないが、仕事の成果にも成らないし、実績にもまして給料にもまったく関係の無いことだったからだ。
私がそういうと彼女
[次のページ]
戻る 編 削 Point(1)