桜の園/前田ふむふむ
 
ゆく。
この華やかな桜の木々が百年を、生き続けるには、
凡そ五十年目に、上手に若木に接木をしなくては、生きて行けないという。
その巧妙な仕掛けを間違えた、惨めな影法師が寂れた泥地で、桜を浴びることが出来ずに、野良犬と戯れている。
男にとって、この屈辱的な程の木霊の華麗さも、過酷なまでの花々のいとおしい短い抱擁も、春雨が滝のように降れば、世界は悉く、色あせて沈黙してゆくだろう。
男は、その時、都会のビルの中で、さくらと題する絵画の眼線をうけて、一人、自分にむかって、うなずいた。
いま、新しい時代が男の躰の中を、静かに動き出す。



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