野田秀樹『贋作 罪と罰』を観る/田代深子
 
 この作品を観るのは初演以来2度目になるのだが、前回はドストエフスキーの原作を読んでいなかった。今回は読んでいる。そうすると、もちろん両者を引き比べざるを得なくなる。しかし意外なほどに、野田の『贋作』は原作に忠実だということがわかったのだった。ラスコーリニコフが女だったり舞台設定が幕末の江戸だったりするのも、さして違和感を感じることなく、『罪と罰』を観ている、という気がする。これはやはり原作の強さなのだろうと思う。
 一緒に観た連れに感想をたずねると「自分が一番期待していたのは、ラスコーリニコフが罪を認める場面を、キリスト教文化から離れてどう表現するかだったのだが、そのときの台詞は原作そのままだ
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