煮びたし/たもつ
君が煮びたしをつくっている
キッチンは包まれている
昨日僕が割った皿は
既に片付けられてる
君の右手と
黒子のある左手によって
どこかから漏れてきた西日が
ステンレスに反射している
後姿しかない人のように
君は煮びたしをつくり続け
煮びたしは鍋の中で
少しずつ煮びたされている
やがて夕食の時間になれば
僕らはいつものように
幸せについて語らなければならない
わずかばかりの気恥ずかしさと
罪の意識を
口元に浮かべながら
君の指先に貼られた絆創膏から
血が滲んで
僕らの日々、その一部が
煮びたしの匂いや音と
混ざり合ってる
戻る 編 削 Point(9)