覚え書きの前提となる?/プテラノドン
覚え書きの前提となる、万里の長城よりも長い語彙から
盗み出された建築方法。そのいくつかを私は知っていた。
例えば シベリアのスーパーマーケットの駐車場で
荷物をしこたま載せたカートを押す老婆の
スカーフの柄がどうだったとか、
白夜の湖畔に佇む(もちろん釣竿を持たせたっていい)
不眠症の老人の口髭を変幻自在に描く方法を。
老人は眠りつく前に ぼそぼそと呟いたが
顔じゅうを覆った髭が邪魔して聞きとれやしなかった。
おかげで、家の中は幽霊のいないお化け屋敷のようだった。
あるいはすでに魂は救われているように思えたが
その方法までは分からなかった。きっと 私以外にも
レンガを盗む者がいたせい。
後二百年もすれば、長城はなくなる。そのかわり
近隣にはたくさんの家が建てられるだろう。
表札には詩人という 制限つきの理念のもとに
スカーフの柄や 老人の髭といった
覚え書きに似たマークが
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