軌跡/アンテ
 

ひと抱えはある
まん丸いかたまりを
ゆっくりと押して転がしながら進みつづけた
すれ違う人たちは
かたまりをしげしげと眺めたり
大きさを測ったりした
中には耳をあてて音を聞く人もいた
こんこん
中から音が響くたび
こんこん
かたまりの表面を叩いて応えて
また歩き出した
通りはひどいでこぼこ道で
かたまりを傷つけないよう
慎重に慎重に進んだが
ついにある時
うっかり道ばたの岩にぶつけてしまった
かたまりはあっけなく割れて
どろどろしたものが流れ出して
黒々と土に染みこんだ
殻を砕いてその上に蒔くと
芽が出てたちまち立派な樹に成長し
枝にはたわわに実が生っ
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