乱丁だらけの古本屋/蒸発王
長年この商売を続けていると
たまぁに
人が本になる瞬間を見るんです
ちょっと
作り話じゃありませんよ
お客さんにも覚えはあるでしょう
何もあたしの処みたいな古本屋じゃなくても良い
本屋や図書館で
あてもなく本棚の間を歩いている時
ふ と自分が世界の何処にいるか判らなくなる
まぁ
たいがい人と本の堺を越えたりはしませんがね
あの日もね
こんな雪の日だった
あたしはまだほんの青二才で
死にたがりの友人が一人いた
あいつは詩人でね
自分には才能が無いって言いながらも
何よりも自分の才能を恐れて
書く事しかできず
死にたがってた
若い詩人でしたよ
そいつ
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