朝/前田ふむふむ
 
鬱を十分に燃焼させて、
  牧神の雄牛の掌から、春の種子がこぼれ落ちる。――
  牧神の牝牛の乳房から、豊穣ないのちの繊維を、
  夢のように湧き出している。――

青い朝がもう一度、鈴を鳴らすと、
こちらは、雨音と雨音の空隙を冷気が埋め尽くす。
小鹿が零を数えると、雨の皮膜を剥いで、
凍りつく空の窓のそとから、
火を焚きはじめた恒星を乗せる馬車が笑顔を覗かせている。
大気が眩暈を起して、躓いた足が時間に大きな穴をつくり、
黒い闇が過去を引きつれて、少しずつ墜落してゆく。

若々しい白色の太陽が森の物語を語るとき、
月は朝のかおりに泥酔して、野兎を罵倒しながら、
土を
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