いのちの感性/前田ふむふむ
満月と星たちが次々と、深い海底に落下して、
水鏡には黒褐色だけが見える。
孤独になった空は雲を身篭って、
粉雪を定まらない海底に落としてゆく。
きのう、海辺の空を眺めて笑っていた僕は、
今日、海底の上を、不安な顔で当ても無くさ迷う。
海底にぶつけた今日の叫び声が、
わずかなブレをおこして振動している。
子供たちは歓声を上げる。
海底の岩を押しつぶす重力のような過去を知らない子供たち、
過去を忘れた子供たち、忘却の恐怖を知らない子供たちは、
過去をもたないからこそ、
満月の頂を溶かす炎になって、
十分な過去とともに、豊穣な海の幸を啄ばむだろう。
僕は、目覚めた青い恒星の上
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