栓抜き/霜天
 
その日を過ぎると
君の背中から栓が抜け落ちて
とろとろと水、のようなものが零れていった
舐めてみると、海の味がする
帰っていくんだな、なんて思う
薄いお酒を飲みながら
時計の針を見ていた


そういえばもう何年も、海へ行っていない


三段跳びで道を越えていく君の向こうで
支えて欲しかったのは僕だったのかもしれない
今、窓に向かって
すっかりと穴の開いた君の立つ風景を
ぼやけた視線で眺めている僕の背中を
全てが後ろから流されていくようで


ささやかなふたりのままで
ようやく、港までたどり着いた
後は出港を待つだけだと思うと
口から栓が抜けそうになる

ここにも花は咲くんだね、と
すっかり白くなったベランダに
種を蒔く
明日の朝には溶けてしまうだろうけど
今はそれでよかった


変わりやすい部屋に
約束は流れて
君から順に
水没する
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