恍惚時間/A道化
 



涙腺にふやけた朝雲が
ぬるく飽和している
もうこれ以上
隠しきれずに
雨滴は春を含んで零れ
しとしと
しとしと


あ、
頬、
ぬるい春を
塗られた頬、の
わたしの息は
結んでは開き
結んでは開く、薄赤の、薄甘の
わたしの息は、梅の蕾の漏らす息に、馴染み
やわらかに、わたしたち
ひとつの呼吸器となり、呼吸器であることが
すべてとなり
その過程が
しとしとするとき


春以外を、忘れ
春、と呼ぶことも忘れ
恍惚としとしとする呼吸器たちの
ああ
そのとき
ただ恍惚とするためだけに
朝であり



2006.2.27.
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