正時の鐘(緑の日々・2)/石畑由紀子
 
これじゃあ私も老後が心配です
二人で短いため息をつく
時おり強い風がきみの緑を奪ってゆく
もうそろそろ風の性格が変わりますよ
急に冷たく厳しくなってゆくんです
このあたりは秋がほんとうに短いから
こうやってあなたに日陰を作ってあげられるのも
あとどれくらいだろう
ぼくが眠りについてもあなたは元気でいて下さいね
いやだなあ、永遠の別れじゃないんだから
そう返しながらも私は胸が熱くなった
きみの中で正時の鐘が鳴っているのだろうか
今この時を誰にも邪魔されたくなかった
またすこし強い風が私ときみを揺らし
風がそこらじゅうの濁点を取り去っていっても
私はもうすこしきみの陰でこうしていたいと思った




( 2003.08.22 )

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