死神と私 −雪溶け−/蒸発王
 
雪の降った夕暮れ
すっかり冷え込んだ空気の中で
黒いコートのポケットに手を入れると
黒い皮製の手帳にいきあたりました


そう
全てはこの手帳が始まりでした


死神の僕にとっては一週間前みたいなものですが
人にとっては何十年もの前の年末のこと

年末には自殺者が増えるので
僕はとても忙しくて
信じられないミスをしてしまったのです
大切な大切な
『鬼籍』の入った手帳を落としてしまいました
僕の手帳の中にはむこう五年間で死ぬ人間の名前がびっしり入っています
機密書中の機密書です
気がついた時には年があけていて
必死で探しまわって手帳を見つけたら
手帳は一人
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