影/便乗鴎
僕がまだ僕じゃなかったとき
家の周りは原っぱだった
イトを縫うみたいに
とんぼが
焦げたバッタが飛び
無心になって追っていた
気づけば
自分の影なんかほったらかして
僕がまだ僕じゃなかったとき
窓辺のコップ一杯の
その悲しみが
雨に揺れること
恐れず
ずっと見ていた
気づけば
影なんかほったらかして
寧ろきみなんか突き飛ばしたくて
階段を上下しては
全身を骨折させて笑った
僕が僕になり
今きみに会いたい
何処に置いてきたのか
判らず
ひとり暮れる
僕の影を
見失う
そしてひとり途方に暮れている
原っぱと製紙工場の臭さが染み込んだ
きみに会いたくて
今晩もベランダ月の匂いを嗅いでいる
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