『白猫考察』/しろいぬ
 

白い猫が、足元に寝転んでいる。

ぷっくりと膨れた白い腹、細い声、甘ったるい視線。

午前7時。出社の時間。

そんな僕の事情など構わずに、猫は媚びるように鳴く。

細められた瞳が僕を覗き込むと、その仕草が僕の心をこしょこしょとくすぐり、触れたいという衝動を掻き立てる。

頭の片隅で時間を気にしながら、結局いつも、僕は衝動に負けてその腹に手を伸ばしてしまう。

声も、視線も、全て打算の産物だということは、膨れた腹が証明しているのだけれど。

その愛らしさに、そんなことどうでもいいやと思わされてしまう。

この猫は、生活を向上させるために使えるものを全て使う。本能のままに。

初めて出合ったときの、ガリガリな体と、人に怯えた瞳はもう欠片すらなく。

容易く人に媚びる姿勢に、妙な自信すら漂いはじめている。

嫌らしい猫やな。

と、ぼやきながら。

僕は弁当のおかずを少し地面にこぼして。

「またな」と、手を振り、駆け足で駐車場へ向かった。

遅刻したら明日は弁当やらん。と心に決めて。


戻る   Point(1)