季と季/木立 悟
雪どけ水が
氷の下を流れゆき
定まらぬかたちの光となり
坂道を静かに下りてゆく
屋根の上にとけのこる
切れば血の出るような雪
月を聴く
舌を挿す
倒れた鏡に映るかたち
空へ昇りつづけるかたち
抱き寄せるもののないかたち
つねに空白に寄りそうかたち
泣きながら歩き 道を見るとき
道がどんどん近づいてくるのは
涙が涙を見ているからだ
離れるがいい
離れるがいい
誰にもついばまれることなく
冬の実から冬が生まれ
水の上に育まれ
次の季節をやわらかく押しやる
ひらかれたままの景の傘
路地の手首に回されてゆく
ほしがる闇を邪険に払い
街はますます奥まってゆく
低いほうへと動く腕
坂の理由を抄い取る
まばゆくひとつ臥せる雪
化石の羽をなぞる雪
木の影は丘に重なり
原をゆくものの道を狭める
坂と川の光は呼びあい
抄い取る腕からこぼれ落ち
空へ届かぬうたとなり
季と季のはざま
涙と涙のはざまへと
今は失いかたちに降りつもる
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