「静かの海」綺譚 (1〜10)/角田寿星
 
を思え 桜に寄り掛ったまま
動かなくなった旅の老僧を思え
眼を閉じた老僧の人生を思え 微笑したままの口許を思え
墓標に乗った天使たちが
凄まじい速度で喇叭を吹き そこにいた皆が
天井に描かれた審判の門に吸い込まれてしまった

死を飲み込むほど巨大化した闇の中で
ぼくは夜明けを探し 山を探し海を森を探す
そして澄明な輝く膜に包まれた
あなたの誕生をいつまでも待つ


 6

ボルヘスの住んでいた
部屋を整理する
古い南宗画をみつけた
しばし
画のなかに閉じこめられる


 7

劇場跡の舞台裏
どこからか光がさしている
あれはどこからの
光だろう
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