二台の洗濯機における青春の一考察/たりぽん(大理 奔)
 

お茶なんかを出してくれるので
冬は寒いけど、風呂は大好きだったな

洗濯場も共同
中庭の井戸小屋に二槽式洗濯機が二台
どちらも近所の粗大ゴミの日に
みんなで回収してきた年代物

一台は薄緑色で洗濯槽は動くが脱水機が壊れていた
一台はアイボリーで脱水機は動くが洗濯槽が壊れていた

お互いができないことを知ってもいないのに
二台はひとつの役目を果たしていた
洗濯は庭石に腰掛けて
キンモクセイとセブンスターを吸いながら
時々、中庭の四角い空に月なんかがはまっていて
四畳半の後輩のマリオの音やら
十二畳の親友のかけるPowerStationの
リズムが聞こえたりした

そんな夏の日だった
祭りの音が遠くに聞こえていた日だった
アイボリーの、まわらない洗濯槽に
わたしは水をためた
めいっぱいためた
そして、すくってきた小さな金魚を
そこに放したんだよ

金魚は泳いでいた
自由だったな
そう、金魚のように

空の色は薄くって
わたしたちは自由だった
その言葉の意味も知らないくらいに



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