とげ/たもつ
 


濁った色の運河を
僕の手が流れていく
腫れ物に触るように
どこか遠慮がちな様子は
やはり僕の手らしかった

妻を抱き
娘を抱き
椅子の背もたれを掴み
いろいろな手続きをしてきた手
けれどその手は
誰も傷つけたことはない
何故ならいつも必ず
言葉で傷つけてきたから

手を見送りながら
振るべき手も
祈るために合わせるべき手も
持たずに立ち尽くす僕は
遠くから見えた
一本のとげだった



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