俺の恋人/佐々宝砂
俺の恋人は
俺を置いて行っちまった
どこに行ったかはわかっているけど
追いかけてゆくのは大変だ
道はわかりやすい
迷うほどの道はありゃしない
あいつが行くのは
いつも決まって同じところだ
森を抜けて早瀬を渡る
岩山の表面に開いている不自然な扉
その扉を開けると
いつもの洞窟だ
洞窟の奥の暗闇に
俺の恋人が待っている
闇の滝に濡れて
俺は洞窟を経巡る
気がつけば
俺には脚がない 手がない 指がない
俺は蛇のように泳ぎながら
洞窟のどんづまりを目指している
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