仄かな言葉/白石昇
 
のと同じ、温かい液体が流れる感触を認識した。内股とかれの腰が重なっている隙間に手を当て、あのときと同じぬめりを、指先に感じる。
 かれの、ため息に似た熱い息を首筋に感じながらわたしは、かれに向かって、
「ねえ、血が出てる」
 と言った。かれは、少しだけわたしの声に反応して、
「聞こえてるん?」
 とわたしに訊く。わたしは、初めて聴いたかれの言葉を、しっかりと感じとりながらゆっくりとうなずいた。
 わたしはまだ、脚の間に低く痛みを感じてはいた。その痛みとともにわたしとかれの心音が、わたしの中で二重奏のように重なって脈打っていた。
 その音を聴きながら、すごく素敵な感じだとわたしは思った。かれの吐く荒い息がはっきりと聞こえていた。わたしのまわりで空気がいま、はっきりと振動していた。

        〈了〉
戻る   Point(4)