仄かな言葉/白石昇
少し離れた場所から感じるかれの匂いとが、出来上がりつつあるコーヒーの匂いに少しずつ掻き消されていった。
わたしは暗い洞窟に、コーヒーの怪物と二人きりで置いてけぼりにされてしまったような気がした。わたしはカップを置き直すふりをしてテーブルの上を探ったが、おかあさんの手は何処にあるのかわからなかった。おかあさんとかれは、やはりわたしから少し距離を置いて座っているらしかった。
急に淋しくなってわたしはカップを右手に持ったまま立ち上がり、左手でおかあさんの肩を探り当てるとその前にカップを置いた。
おかあさんは、わたしの左手をいつものように優しく叩く。わたしは更にかれの前にもおかあさんと
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