さらば静寂/吉岡孝次
 
明るい時刻に帰れることもあるから
一人暮しは悪くない
許されて 晴れて許された僕は
席を立とうとする冬の空を見上げる
傷めてしまった膝も今日は軽い
人がいなければ人の世はかくも清々しく
帝政ドイツで「断章」を意味した花粉が舞っていても
この景色はどちらかと言えば水に似ている
僕が 絶妙なタイミングで放り出された町
凡庸な比喩も切り詰めなくていい
過ぎ去るべき「時」も今は散らされている
言葉を覚えるくらいなら調子よく
コートの中に逃げ込んだほうがいい
そのほうが気も利いていて
寒くもない
こんな静けさを
取りこぼすことも ない
それでも顎の下 空気に曝された喉は喜んでいる
「ありがとう」の一言は余計だし
そういうのはもういいから
追わずに 添いとげてやれ

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