蛸。/仲本いすら
ことだ。いいか、蛸。よく聞け。」
それを飲み込む。
「斬った足を、お前の口に運んでいく。」
ごくり、と言う音とともに吸盤は胃酸へと解ける。
「その口に運んだお前の足を、お前がどうしようがお前の勝手だ。」
「それが、私の一番嫌がることなのか?」
蛸は黄色い目玉の全てを使い、元宮をしっかりと見つめている。
「そうだ、蛸。理由は、聞かなくていい。」
「お前、ただ一つだけ頼みがある」くぐもった声で蛸は言う。
「私をおもちゃにして、お前の欲を満たすのは一向に構わない。」
まるで何か悟りを開いたかのように「ただ、一つだけ頼みがある」
「もしもそれで私が死んだら、私の中にある墨で一筆、書いてもらえないだろうか。うまくなくても構わない。」
「まぁ、考えておこう。で、蛸。なんて書いてほしいのだ?」
「犠牲、と書いてくれ。」
七十分刻みの、遊戯が始まった。
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