夜のはじまり/木立 悟
 




光に向かい
深くうなづき
閉じた瞳の匂いを嗅ぐ


降る雪を見つめ 招き入れ
空洞の柱を積む音が
鐘のように鳴り響いている


枝の雪は枝から解かれ
見えぬもののかたちに重なり
風を受けて鳴り響いている


影を残して歩かずとも
影は静かに剥がれ落ち
飛べない足跡の羽になる


通りすぎる輪の音が
曲がり角にわだかまり
歩むものへと話しかける


光を運ぶものの手が
枝を伝う月の火が
まだらにかがやくけだものに触れる


中庭を覆う雪と蝋燭
誰かが忘れた双つの衣
水たまりの道を揺らす風


隣に眠る吐息のまたたき
夜をわたる花のむらさき
けだものの背を染めてゆく










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