死神と私 −夜霧よ今夜も−/蒸発王
“夜霧よ今夜も有り難う”
風呂場からのん気に聞こえてくる鼻歌を尻目に
私は部屋を出ていきました
前前から
死神の電波加減や頑固さには目を瞑って来ました
でも今回ばかりは限界です
私の気持ちなどあの名付け親はちっとも考えていないのです
その証拠に喧嘩の途中で風呂に入り鼻歌を歌っています
もう何も言わずに出ていきました
季節は
春も枯れた初夏
宵の口に降った五月雨の残り香が
早咲きの紫陽花の上に乗っています
夜闇の匂いも夏のような生臭い匂いになってきました
路には人が少なく
ときおり帰路を走る自転車が横切るだけです
家々の幸せそうな光が夜空に伸び
[次のページ]
[グループ]
戻る 編 削 Point(8)