「地下鉄には、もう一つの夜が」/ベンジャミン
(地下鉄の入り口)
真昼でも陽の光の届かない
そこは蛍光灯で照らされた
もう一つの夜だった
疲れた足取りで階段を降りてゆく
行き先を示す電光掲示板には
目的の場所が表示されることはない
(地下鉄の通路)
いつか見たホームレスは
冷たい床に新聞紙を敷いて
流れてゆく時間の中で
流されてゆく人波を眺めていた
穏やかな眼差しの中には
確な失望が隠されていたけれど
誰もが自分と離れた存在に
気づくことはない
(地下鉄のホーム)
そこに吹く風には色がない
疲れた足取りで乗り込む人の顔は
どれも同じに見えてしまう
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