きろ、つきはなし/たもつ
涙の中を泳ぐ魚がいて
僕の源氏名はまだ忘れられたまま
あなたは僕の順番となり
順番は花びらのびらとなり
そのことで誰も困りはしない
こうして縮まった身体をひょうっとすれば
僕らの不在は電話でのみ確認されてしまう
大きく開かれた口の中
僕はあなたのスリッパを履き続け
書き終わらない卒論のまだ一行目あたり
を指でいじりまわしている
軒下という軒下では靴下のように
たくさんの人が歌われて今日も悲しい
その間にも理髪師のハサミは
意味の無い記号を切り刻むことに忙しい
既に僕らに意味は無いのだから
ああ、眼鏡色の丘の上に立ち
僕はあなたのえくぼが好きだったのだと
さっき気づいたばかりなのだ
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