夏の奥、油性の足跡/霜天
 
それを確かめずに
小さく震わせて僕に返す
がんじがらめで、何一つ出ていかない
その程度の世界で
あなたは何かを待っているようで

あなたは何も言わずに階段を昇っていく
僕の坂道を駆け上がる昨日よりも速い速度
その先には明後日よりも



その夏には
夏の奥の秋の匂いが
邪魔をするように立ちふさがっていた
ついでのような歩幅であの人が残す言葉
確かめるよりも早く、飲み込んで
また、足跡を見ている


手のひらに掴んだはずの
感覚がどこにもない
するりと逃げていく蝶々が
僕の周りを切り取るようにして
空になっていく

夏の、奥には
いつも消えないままの足跡がある
油性マジックで書いた手紙を
今も開けば
いつでもあの日が迎えてくれる




そこには、明後日がある
まだ踏み越えてはいない足跡の奥
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