冬のひかり/前田ふむふむ
錠剤の齎す安らぎを与えてくれるだろうか。季節がつくる悲しい情景の呻き声を打ち消して、こころの裂けている傷口を、包帯で塞いで、薄汚れた血の中に滲みこんでいる、知性の袋小路を正してくれるだろうか。
深く眼を瞑れば、島々はすでに海原に沈んでしまっている。霊力の及ばぬ動脈から膜を剥いだ血液を肌に塗りつければ、途切れた糸杉の風景が眩しく映る。
暗い戦慄の声を知らずに、分かろうとせずに、幾度となく短絡的に自分を棄てることが許されてきたこの渇いた時代の僕のこころと、僕に紐で結びつけた時間を束ねている、褐色の月を覗きながら、冬のひかりは、僕の弱々しい心臓を、液状の大地に変えて、季節のうら悲しい言葉を束ねて、悩ましく語り、寂しい顔を沈痛な声を震わせて、ゆっくりと匿名の時間を歩いている。
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