幸せの森?散文詩/前田ふむふむ
して死ぬときも一人であっては)
(ならないのです。)
小さな緑の妖精は語り終えると、キラキラとした硝子の鈴を鳴らしながら歩き出した。わたしはたくさんの小さな緑の妖精たちに手を引かれて、後について行った。俄かに、木々をわたる風が吹いてきて、わたしはまどろみの雑踏から放り出された。しばらくして、鎮痛剤の効き目が切れてきたら、わたしはもとの苦痛のバスに乗っていた。バスの窓から覗いたが、幸せの森は見えなかった。
だが、峻険な断崖は消えてなくなり、穏やかな空気が満ちて、母が夕餉の支度をしており、その後姿から生命の声が優しく囁いてくるのを、私は静かに聞いていた。その声は、わたしの内部を爽やかに駆け巡ると、わたしの掌から、再び溢れ出して、母の背中にむかって、温かい放物線を描いて流れていった。
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