ヘリウム/霜天
少しだけの眠りのつもりが
起きれば一人きりになっている
音楽室の隅、斜めに立ちながら
輪郭だけを残した人たちの足跡を
軽いステップ、かわしながら
半音、高いところを
やがてすり抜ける
そして僕らは
いつものように酸素が足りない
爪先へは、どこへも届かない
いちについて、の姿勢のまま
走り出していくばかり
冬も春も
咲く花の方向性に理由などなくて
量産される歌声に
耳を澄ませても笑い出してしまう
暖房の届かない音楽室の
反響する声という声
いつからか問いかけてくるけれど
それには答えないことで
答えている
音楽室には、窓がない
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