海の誕生日/ラピス
見えたあれが海
開ける青い空
飛んでいった帽子
母が呼んだ弟とわたし
乾いた松林を抜けて
見えたあれが海
白いたてがみは波頭
幾千の貝が呼吸をしている
幾千の魚が影を滑らし
海の誕生日
浜茶屋で
みんなでおにぎりを頬張る
熱い頭を寄せ合って
砂が飯粒に混じり
潮の味がする
どの夏もいつも一緒にいた
当たり前と思っていた
幼かったわたし
幼かった弟
海は老人
父母も今は老いた
あの頃
みんな笑っていた
冗談ばかりで3時のおやつ
母はこっそり泣いていた
父も涙ぐむことがあった
今になって分かる気がする
そりゃ、貧乏だったから
幾千の貝が呼吸をしている
幾千の魚が影を滑らし
今も海は誕生日
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