一族/たもつ
からのその赤髭先生ぶりまで
その話が始まると要領の良い妻はいつも
思い出したかのように用事を見つけては中座する
兄嫁はせっかくの父の喜びを壊したくないようで
何回も聞いたその話にふんふんと頷いている
兄と僕はそ知らぬ顔でテレビを見ていたりする
一族が写った色あせた集合写真
そこに写っている人間は
祖父母も含め何人かは他界してしまった
父の十人兄弟とその配偶者たちを忘れぬように
僕は時々その人たちを年齢順に並べる
床の中で眠りに入る直前や
満員電車に揺られながら
話はいよいよ佳境に入り
祖父が野口英世博士の講義を受けたところにまで及ぶと
ますます語る口調にも熱が入る
そんな父もだいぶ縮まってしまった
そういえば今年
写真の中の祖父の年齢を
超えることになる
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