薬指の標本/蒸発王
お雛様のような
さっぱりした顔の女性が立っていた
手には薬指が無い
やはり
いつもの様に
私は何も言わずに
薬指の標本を女性に見せると
彼女は
思いつめたように
さっき新しく加えたばかりの
あの一番美しい薬指を手に取り
新しい恋を見つけます
と
朗らかに笑った
私も
いつものように
良い恋を!
と言って送り出す
私の拾う薬指とは
つまり
そういうものである
彼女が帰って
薬指の標本は
21本になった
薬指を手放した女性は
まだ21人もいるのだ
彼女達が
一日でも早く
私の家へ薬指を取りに来てくれる事を祈っている
けれども
この薬指の標本が寂しくなるのを
少しだけ残念に思っている
外は
雨
寒くならないように
指袋を標本にかぶせた
『薬指の標本』
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