こいまぐれ/アシタバ
 
丘のうえにやせた人影がある
夕ぐれどき
犬の吠える
長く尾をひいて
雲は赤光に群がるから
西の空だけ覆われている
ベンチの倒れた公園に
郷愁を拾うよそ者が増えて
小さな顔の老婆は住処を失った
見たままのことが信じられなくて
濃い緑の色眼鏡を買った日
そのときの少年に飴玉を手渡した少女のことを
老婆は誰かに聞いた話だと思い込んでいた
いまでも緑の色眼鏡は老婆の鼻の上にある
外したことがないのでかけていることまで忘れている
老婆は丘の傾斜にすわりこんで
緑色のくらがりを眺めている
やせた人影はその後姿が
闇に沈むのを見とどけて
立ち去った

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