小さな歌/木立 悟
 




涙のなかの二重(ふたえ)の花
小さな歌と 軽い足ぶみ
指がぜんぶ ひとつずつ
翼になっていくような
それでもけして地を離れない
微笑むような足ぶみ
歌う先に雲はひらいて
遠い水の光を呼ぶ


カラスの羽を持つ蝶が
海の向こうのほころびへ飛ぶ
待ちかねたように夜が鳴く
待ちかねたように花が咲く
途切れ途切れにつづく声
雨の光に洗われる世界
再び朝まで歌われる世界


人を見たことのない動物に
誰かに起こされるのを待つ泡に
じっと触れる
腹から胸
胸から口
口から空へ
ひらかれる
ひらかれる手のひら


世界は速く
世界は遅い
同じもののない悲しさを笑えたとき
流れのような歌が生まれた
忘れたくない言葉が生まれた
無と壱のあいだにある
すべての波の声に応えて
小さな歌は羽のなかで
小さな足ぶみをつづけてゆく









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