野良犬から見た世界/ベンジャミン
親犬は子犬の匂いを忘れるだろうか
見えることのない世界の
わずかな隙間にさしこんだ光を失って
容赦ないスピードで
通り過ぎてゆく車が走る道路に
生きる道は残されているだろうか
親犬は見えない瞳の中に
いったいどんな
自分の子の姿を映していたのだろう
雨が降っていた
あの日と同じ雨の匂いだった
大丈夫だと言われた
大丈夫なのかもしれないと思えた
雨の匂いに子犬の匂いを重ねて
親犬は何処かでうずくまっている
雨が降っていた
なんとなく
涙の匂いに似ていた
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