魚たちの遊戯/和歌こゆみ
 
明るいのはいやだって私が言ったから
昼間は1度だけだった

あの日誘ったのは私からで
光を取り除いた
水槽の底で
あなたに借りたシャツを脱いだ
ガラスの向こうを
しらない誰かの車が過ぎて
儀式のあと
あなたはこごえる肌をさらして
境をうしなった2人で
熱(ほて)る温度を取り分けて
あなたの濡れたような瞳に映され
この夜はわたしのものだと
信じて疑わなかった
そうおもわない理由なんて
どこにもなかったから

おねがい。涙をみせて。


唇の端から
さっきの会話が
かすれて消えていって
食べ終えたケーキのお皿が
水草に絡めとられるのをみたの
絶望にすら似た甘美


私を軽蔑する?
そんなの平気よ


あなたの剥がれた鱗はまだ
私の舌の奥に埋まってる
このまま飲み込んでしまおうか


腕を回して
耳たぶに触れたまま口づけて
最後の言葉はひとつだけ
はじけて泡になった
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