おっぱい/いとう
 
海岸に沿って並ぶテトラポットには無数のお
っぱいが隙間なく張り付いていて、朝凪の時
刻になるときゅぅるるるぅーとすすり泣くよ
うな音を立てる。声にすら成り切れていない
その音はまるで餓えた乳呑児の満たされない
叫びのようで、呼応するように無数の乳首か
ら黄白く爛れた液が漏れてゆく。そのため夜
明けの数時間は海が白濁するのだが、すぐに
波に洗われて、消える。

海面に近いおっぱいは波に合わせて揺れ動く。
張りの良いものはそれほどの動きを見せない
が、萎びてしまったものは波以上にたなびい
て、時折隣のおっぱいと絡まっていることも
ある。海面下のテトラポットもおっぱいで埋

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